オスの木とメスの木
植物にもオスとメスがある?
キウイフルーツにはメスと木とオスの木とがあります。
メスの木だけ植えても、オスの木がないと受粉ができないので、キウイフルーツの
実になりません。
イチョウにもメスの木とオスの木とがあります。銀杏が成るのは、メスの木だけで
す。そのため、街路樹には銀杏が落ちて道路が汚れないようにオスの木だけが植えら
れていることがあります。
植物なのに、メスとオスとがあるというのは、奇妙な感じがします。
しかし、考えてみれば動物にはすべてメスとオスとがあります。一つの花の中に雌
しべと雄しべがあってメスとオスが同居している方がおかしいのかも知れません。
動物の中にも、一つの体の中にメスとオスが同居しているものがあります。ミミズ
やカタツムリがそうです。ミミズやカタツムリは、あまり遠くまで動くことができま
せん。そのため、メスとオスとが出会うチャンスは多くありません。そのため、出会
った相手が誰であっても、子孫を残せるように、メスとオスとを合わせ持っているの
です。
植物は動けません。ミミズやカタツムリほども動くことができないのです。そのた
め、植物も一つの花の中に雌しべと雄しべの両方を持っています。
自家受粉のデメリット
同じ花の中に雌しべと雄しべがあるのであれば、自分の花粉を自分の雌しべにつけ
て種子を作ってしまえば良さそうなものです。しかし実際には、植物は風に飛ばした
り、昆虫を呼び寄せたりして、他の花に花粉を運んで交雑します。
自分の花粉を自分の雌しべにつけて自分だけで種子を作っても、自分と同じような
性格の子孫しか作ることができません。もし、ある病気に弱いという弱点があったと
すると、自分のすべての子孫にその弱点が受け継がれてしまいます。その病気がまん
延すれば、自分の子孫は全滅してしまいます。
自分とは違う性質を持つ他の個体と花粉を交換して交雑すれば、さまざまな特徴を
持った子孫を作ることができます。そうすれば、環境が変化したり、どんな病気がま
ん延しても、全滅することはないのです。
多様な子孫を作る工夫
しかし、一つの花の中に雌しべと雄しべがあると、自分の花粉で受精してしまう危
険性があります。そのため植物は、自分の花粉では受精しないような仕組みを持って
います。
植物の花は、雄しべよりも雌しべの方が長いものが多くあります。雄しべの方が長
いと、雄しべから花粉が落ちてきてしまいます。そのため、雌しべの方を長くしてい
るのです。
また、雄しべと雄しべが熟す時期がずれているものもあります。たとえば、雄しべ
が先に熟せば、受精能力のない雌しべについても種子はせきません。逆に雌しべが先
に熟せば、雄しべが花粉を作る頃には、雌しべは受精を終えているのです。
さらには、自分の花粉が雌しべについても、雌しべの先の物質が花粉を攻撃して、
花粉が発芽するのを妨げたり、花粉管の伸長を停止させるような仕組みを持っている
ものもあります。この性質は「自家不和合性」と呼ばれています。
キウイフルーツは、このような自殖を防ぐ手間を掛けなくても良いように、最初か
ら、メスの木とオスの木とを分けているのです。
このように、他の個体と花粉をやり取りすることは、多様な性質の子孫を作ること
に有利です。しかし、他の個体に花粉を運ぶためには、たくさんの花粉を作らなけれ
ばなりません。また、うまく花粉が運ばれなければ、種子を作ることができないかも
知れません。そのため、短期的に見ると、自分の花粉を自分の雌しべにつけて種子を
作る「自家受精」が有利です。そのため、花粉がやってこない人工的な環境に生える
雑草や、人間が保護する作物では、自家受精を行うものもあります。
―面白くて眠れなくなる植物学-より抜粋